ボタン

two_crafts2006-01-28

原宿のhhにヘラ・ヨンゲリウスの新作のソファが入荷していました。待望の「polder」。あらためて見るとかなりの大きさ。奥行きはそれほどでもないが幅は333cm。身長166,5cmの人なら縦に二人が横になれる(但しもう少し小さいモデルもあるらしい)。ベースとなる部分にふたつのシートとふたつの背もたれとひとつのクッションを置いたような構造で、その6つの部分のファブリックがそれぞれ微妙に色合いや質感が違う。オランダの干拓地をモチーフにしたらしいのですが、それはそれとしてもそれぞれの素材の組み合わせがとてもいい。オーラを感じる。

シートにはボタンが縫い付けてあります。このボタンが普通じゃない。糸を通す穴が十数個もあいている。その内で実際に糸が通る穴は4個だけ。ボタンの素材も角や竹や貝など数種類のバリエーションがある。さらにボタンはソファの背面にも縫い付けられていて、こちらのボタンからは糸が数十センチ飛び出した状態で切ってある。このボタンや糸(色も独特)がソファのデザインのアクセント、ということになっています。

なぜボタンに穴がたくさんあいているのか。もしボタンの穴が普通に2つや4つならどのソファのどのボタンもまったく同じに縫い付けらる。しかしこのボタンはたくさんの穴の中のうち4カ所しか糸を通さないから、それぞれのソファに個体差が生まれる。ボタンの種類も、たぶん「背もたれの真ん中は水牛の角で」などと決まっておらず、ボタンを付ける人がアトランダムに手にしたものが縫い付けられていく。とすると、やはり個体差ができる。背面のボタンから飛び出た糸の長さや飛び出る角度も、やっぱり個体差を生む。

不確定要素による個体差はヘラ・ヨンゲリウスの今までのデザインにもたびたび現れていて、after craftで扱うB-SETもそう。通常よりも高温で焼成される磁器は熱によって微妙に歪む。この歪みは作り手がコントロールできない。またマハラムから発表しているファブリックは柄のリピート幅が数メートルもある。だからいくつかの家具をこのファブリックに張り替えると、ひとつひとつ違う柄が現れる。同じファブリックではあるので全体のトーンは統一されるけど、まったく同じにはならない。その個体差がデザインのコンセプトにある。

ということでソファ「polder」のボタンも、個体差を生むための仕掛けなのではと思いました。そんな個体差にどんな意味を持たせようとしているかは本人の言葉を聞かないとわかりませんが(そして単に変わったボタン付けてみただけなのかもしれませんが)。そして全体から見たらほんとに小さいパーツなんだけど。でも量産品のデザインというのは不確定要素がないことが前提になってる面がある。家具のカタログにわざわざ「木目は製品によって違います」と断り書きがあるくらいだから。そこで不確定要素にまで枠を広げてプロダクトのデザインを発想することは、3次元のデザインを4次元で発想するくらいに、プロダクトのおもしろさを拡げる気がする。作り手の立場としても、使い手の立場としても。
...とまあ、そんな妄想は別にしても「polder」はすばらしかった。もちろん迷わず即購入を決めました。では今月からヘラ貯金を始めます。after t